今週のテーマは「時期」
2015のストーリー その2「時期」
チッチは列車に揺られていた。
いつの間にか眠りこけて、車窓に頬を委ねていた。
夢の中で、乗り込むまでのことが頭の中を巡っていた。
チッチは背後から声をかけられた。
「やぁ、よく来たね!」
「なんだ、そこだったの?」
「相変わらずだね、この木の下なら覚えてるかと思ったのに」
「覚えてた、覚えてると思ってたの。だって忘れようがないじゃない」
「そうだよな、あんなに派手に転んだら」
「……」
「あんまり気の毒でつい手を貸しちゃったんだ」
「そうよ、だから忘れっこないもの」
「チッチと出会った場所!」
「サムと出会った場所!」
「じゃあ行こうか?」
「うん」
そのとき、チッチに駆け寄った人物がいた。
「チッチ!」
「あ、お母さん」
「慌てて飛び出していくから」
「ごめんね」
「上着も持たずで、この子は」
「寒いと思った」
「サムくん、この子本当は熱があるの」
「そうなの?チッチ」
「実はね…」
「分かった、なら延期しよう」
「それで間に合うの」
「大丈夫さ、じゃあ次の週末にもう一度この場所で」
「サムくん、ごめんね、いつもこの調子で」
「はい、よく承知してます。だけどそれもチッチといる楽しさのひとつだから」
延期になった途端、体の力が抜けたチッチ。
サムに助けられて、家路に着く。
「無理はいけない。本当のことを自分でちゃんと言えるようにならなくちゃ。そうすれば最高のタイミングに出会えるよ」
空に浮かんだ満月が、そんなふうに嗜めているようだった。
(つづく)