2015のストーリー その13「表と裏」
「手荒な真似をして、申し訳ありませんでした」
紳士は、サムに向かって話しかけた。
「大丈夫ですよ」
「話を同伴のご婦人に聞かれたくなかったものですから」
「察しはついていました」
「そうでしたか…私どもの調べで、ルークさんの興味深いプロジェクトは、元々サムさんのアイデアだということが分かり、ならば、今回のトラブル収拾も、サムさんのお知恵を拝借するのがよいだろうと考えたのです」
「なるほど…」
「しかし、困ったものです。今回の事態について聞かれましたか?」
「いえ、詳しくは…。ですが、元々その可能性については懸念していましたので、このプロジェクトを現実で動かすことには賛成していませんでした」
「確かに、予測できることでした。ですが画期的だと考えたルークさんたちの気持ちも分かります」
「追いつめられていましたからね」
「そうです」
「彼らのように、実行できる立場としては、着手したくなっても仕方がなかったかもしれません。そんな彼らにアイデアを話した僕が軽率でした」
「いや、ルークさんたちのお陰で助かった人たちもいるのです。サムさんがそんなふうにおっしゃらなくても」
「……」
「とにかく、これからが大切です。うまく収拾したい」
「そうですね…問題点は、外側から見た場合、まったく違いがないことです」
「そうなんです。善意も悪意も見分けがつかない」
「僕は…もういいのではないかと思っています」
「…もういいとは?」
「外側からどう見えても、ルークたちのプロジェクトは一応機能した訳です」
「確かに…それはそうですね」
「目標は達成できなかったかもしれないが、目的はささやかでも達成されたんです。それに、これ以上やらなければ、彼らが立件されることはないでしょう」
「そう言われれば、その通りです。では、このまま?」
「えぇ、このまま」
「しかし、そうなると我々は悪意のしもべたちにアイデアを提供して、何の責任も取らず退散することになりはしませんか?」
「その通りです。ただ、しもべたちもまた眠っていたものを発掘したに過ぎません。そして発掘されたものが、悪意の元、悪事に使われるというのも、我々の勝手な想像でしかないのです」
「……」
「ルークたちとしもべたちの違いは、本人の同意があったかどうかだけです。その違いはとてつもなく大きいですが」
「そこなんです!」
「えぇ…」
「被害者となった皆さんにどうお詫びすれば良いか…」
「それは違うんじゃないでしょうか」
「え?!」
「発掘された皆さんは、それを望んでいたのではないだろうかと思うのです」
「そんな、バカな…」
「もちろん潜在的にでしょうが。でなければ、同じことを繰り返す人まで出ていることの説明がかえって難しくなります」
「まさか…」
「我々の想像以上に、慈愛に満ちた人たちがたくさんいて、協力を求められるのを待っていたのではないでしょうか?僕らの過失は、そのことにもっと早く気づくべきだった。そうすれば…」
「そうすれば?」
「…不確実性は消去できましたね。僕らのほうが役に立てたと言う補償はありませんが」
「えらく謙虚ですね」
「慈善活動を『被害にあった』と言い換えるのも社会のトリックですよ」
「う〜ん…」
「しかし、しもべたちの強引なやり方はやめさせたいですね」
「そうですよ!」
「彼らと接触を試みましょうか?」
「え!?」
(次回に続く)
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